スカイファイターエフ
『鷹戦士F』立ち読み
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第1章 白い悪魔
White DEVIL

 Fは舞う。誰も彼を縛る者はない。タイラはFという衝撃的な鷹との出会いに心を打ち抜かれ、ただ彼の現れそうな場所を飛んでは会えない日もあり、会える日もあった。
 そして今日は、幸運な日だった。

「ジャンゴーを探しているのかい」

「そうだ。あいつと戦って勝てば、このタンザニアに要はない」

「そんなあんたに、あたしからの、最初で最後のプレゼントだよ」

 タイラが笑った。そしてはるか遠い、西の空からあのジャンゴーが颯爽と、風を切ってやってくる。

「おまえが噂の白い悪魔か」

「俺の名は、Fだ」

 ジャングルは、異様な静けさに包まれた。どこからともなく遠い木々にカンムリクマタカやコシジロイヌワシ、ゴマバラワシらがその戦いを視察に来ていた。この戦いを見るために各縄張りの王やスカイファイター達が集まったのは、女帝タイラによるものだ。

「アフリカのワシたちよ、この戦いを胸に刻み、各々の励みとして精進せよ!空の王として我らが繁栄するために!」

 各領の王たちが興奮して見ている。Fという鷹がどれほど強いのか。あの、アフリカ最強のジャンゴーに未知の力のFが太刀打ちできるのか。
 ジャンゴーはゆっくりと舞う。
 対照的に、Fのスピードは速い。あんなにゆっくりで急な仕掛けに応じられるのか。今度はFが待たずに蹴りかかった。その時ジャンゴーは垂直上昇でフワリとかわし、降下するFの背中を追いかけて蹴った。
 Fは久しくまともな蹴りを食らった。速さだけではない。相手の低速飛行に慣れさせられ速い追い打ちに対応できなくなっていた。

(錯覚を利用したか、うまいぜ。長引かせれば、それだけ相手の術中にはまってしまう)

 Fは再び急接近する。そして相手が交わしに来た。今度はそこで更に加速する。ジャンゴーはそのスピードに対応できずFは一気に掴みかかった。そしてその脚をガッシリと掴んだ。

「差し違える気か!」

 タイラは思わず止めに入ろうとした。Fは完全な殺し合いに出ている。野生界では反則技とさえいえる。

「待て!男の勝負だ!」

 その声は、ゴマバラワシのダンだ。ダン、タイラをも上回る絶大なパワーを持つ彼もまたアフリカを彷徨う鷲戦士。

「命を奪い合う争いはルールに反している!」

「ならば命をかけられない方が負けを認めればいい。お前には分かるまい。鷹戦士の心が」

 一国の領主となり、それで満足する奴はそれ以上の戦いを欲っさない。Fも、ジャンゴーも、スカイファイター。変えられない生き様がある。譲れない誇りがある。ジャンゴーはそれに、受けて立つ気なのだ。
 そのとき、空中で掴み合い蹴り合いながら、ずっと隙を狙っていたジャンゴーの指が瞬時にFの胸をガッシリ掴んだ。勝負はあったか!Fは息も出来ずにジャンゴーを睨んだ。
「Fよ、お前はあまりにも若くして強くなり過ぎた。お前が成鳥すれば俺は勝てなくなるだろう。だから今のうちにお前を殺す。俺が、世界最強のカンムリクマタカであるために」





 その長い爪が心臓に達すれば戦いは終わる。そのとき、ブツリと音がした。Fの胸から血が飛ぶ。ついに心臓は引き裂かれたのか。

 しかしダンはその事態に誰より先に気がつく。ジャンゴーの太股が血でぬれている。そしてガクガク震えながらその爪がFの胸から離れた。ジャンゴーの脚の筋が切れたのだ。
 Fはわざと胸を突き出し瞬時に脚を掴んでいたのだ。そして素早くもう片足をガッシリと握り合った。
「肉を切らせて骨を切る……見事だぜ、F」
ダンが震えた。Fが今度はジャンゴーの胸をガッシリと掴んだまま大きく爪を食い込ませ反撃の隙を与えずにとどめを刺す。ジャンゴーは目を開けたまま、絶命した。
「Fは血に飢えた悪魔だ、白い悪魔だ…」
 ワシたちは厳かにその空から去っていった。
 Fは大木の樹幹に舞い降り、ジャンゴーの遺体を大きな枝の上にかざし、天に吠えた。若さ故の激しさ、純粋さ、その野望は命をかけた戦いの中でのみ満たされた。
 そして、Fはタイラと視線を重ねる。
「俺は最強の称号のためなら命を捨てられる。俺はこういう男だ」
 だから忘れてくれと言うその言葉には、Fの隠れた優しさがあった。タイラはもう、Fを追うまいと心に決めた。
(F、分かったよ。ただひとつ、これだけは本当だよ。あたしがこの先誰と暮らすことになろうと、誰の子を産もうと、たとえあんたと戦うことになろうと、最愛なのは…あなただって……)
 だから忘れてくれという裏の言葉を聞いたタイラはもう、Fを追うまいと心に決めた。
「F、あんたにこのジャングルは似合わない。何処までも飛ぶがいいさ。何処までも……!」
 それが彼女の最後の言葉だった。タンザニアの女帝タイラの言葉は、Fの胸にクギのように打ち込まれた。

 Fが弟に叫んだ最後の言葉……それは『おれと戦え』だった。自分だけが生き残った彼の行く道は自分を殺す道、それと同時にそれだけが、自分を生かす道。
 Fは舞い上がった。無限の夢、天下無双を胸に。に。


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